あの夜から数日間、

和は貴史を目で追いながらも、何事もなく過ごしていた。


貴史の方も、あれから和に話し掛ける事はなく、

相変わらず人気者の貴史は、和にとって遠い存在のまま、だった。


視界の殆どを貴史が独占している事実を変える事は出来なかったが、

それでも それは平和な毎日だった。


″気持ち″には ずっと、気付かない振りを し続けていたから。




しかし、それから5日 経った ある日、

和は もう一度 貴史と話す羽目に なった。






今度は まだ明るい教室で。


和が また一人で、教室に戻って行った時だった。


桜は もう散り、木々は すっかり黄緑色を、していた。




部活動の生徒で賑わう校庭から聞こえる声も、

ガラス窓に すっぱり と 遮断されて、

教室の中は外の喧騒が嘘のように、静かだった。


その静寂の教室で、あの時と同じように空に背を向けて窓に寄り掛かり、

貴史は一枚の絵画か何かのように佇んでいた。


まるで作り物のような その容姿の所為で、

彼の周りは、時が止まっている みたい、だった。


不覚にも また見惚れて動けないで居る和に、

気付いた貴史が、笑った。