コーヒーを入れて、使い古されたぺちゃんこの座布団に腰を下ろすと、少しだけ落ち着いた。


「稼ぎがないわけじゃないんだから、もっと綺麗な所に引っ越せばいいのに…。」

両親や同僚によく言われるし、自分でもそうすればいいと思う。


でも。

それでも、俺が此処から引っ越さないのは、待っているヒトがいるから。





ほとんど、家具が置かれていない部屋の中で、やたら眼に付く黒いタンス。

と、その上に置かれた写真立て。


そこに入れられた写真の中で肩を寄せあい幸せそうに微笑んでいるカップル。


男のほうが俺で、女のほうが如月美羽(キサラギミウ)。


俺が、此処から引っ越さない理由を作っているヒト…―。