聖域〜サンクチュアリ〜



そっと、左耳に手を触れる。

実はこの左耳、ちょっとだけ聞こえにくくなっている。

不慮の事故だった筈だが、小さな体の小さな左頭部にかなりの衝撃を食らった。

母は異常なほどに俺を心配___いや、心配と呼ぶのだろうか、あれは?

”もし足や指に大怪我していたら、この子は歩けなくなって……字が書けなくなって……!!”

あの頃の母には、恐怖さえ感じた。

母は俺に大きな期待をかける上に過保護ときた。

それこそ異常なまでに。

運動に怪我はつきもの。どうしたらそこまで、狂ったように被害妄想をできるのか。

さすがの父も、こうなった以上母をどうにもできず、ただ母が元に戻るのを待つしかなかった。