「とーわちゃん」
ぞわっ、と悪寒が走る。
ドアの向こうから聞こえる声。
顔を背けて行こうとした私の足音とドアの開く音が重なった。
……最悪なシンクロ。
ヤツが顔を覗かせた。
「都和ちゃん、部屋にいたの?ただいま」
「…………おかえり……」
聞こえるか聞こえないかというくらいの声で呟くと、ヤツは満足げにうなずき、にへらっと顔を歪めた。
ウザったくも、私の後をついてくる。
そのまま歩き出す。
私が一歩踏み出すたびに、すぐ後ろで一歩、また一歩。
気持ち悪い…
お願いだからついてこないで!!
そう願うも虚しく。解っているけど。
トン、トン……。
静まり返った空間に、スリッパを履いた足音だけが居心地悪く響く。
下におりると、お母さんがキッチンに立って味噌汁を作っていた。
「二人とも、もうすぐご飯できるよー」
笑顔で答えるヤツは、ようやく私から離れてお母さんに寄り添った。
瞬間、張りつめていた神経がゆるみ、強張っていた身体から力が抜けた。
