「令央。準備できた?」
母さんが俺の部屋に入ってきて言う。

「……うん。もう行ける」
「そう。じゃあもう…」
一刻も早くこの家を出たそうな顔をしている母さんの横をすっと通って玄関に向かう。

俺たちが靴を履いている間、すぐ後ろで父さんがずっと立っていた。

ちょっとは別れを惜しんでほしいと思いもした。
が、父さんはただ立って居るだけで一度も口を動かそうとはしなかった。

少しくらい寂しがってもいいんじゃないのか。
実の息子だってのにさ。



玄関のドアに手をかけた時だった。

「……令央」

父さんの声。
いつものような怒りじゃない、悲しそうな声色。

俺は、

「……バイバイ」

ちょっとだけ父さんを振り返って。

14年暮らした家を出た。