「仁」
何度目だろう。
この愛しい名前を呼ぶのは。
「なんだよ、菜穂」
何度目だろう。
素っ気ないながらも優しい声で返事してくれるのは。
「なーに撮ってんの?」
「ん? 雑草」
「え、なんで雑草なんか撮ってんの?」
「雨上がりでなんか綺麗なんだよ」
「へぇー」
仁は、写真を撮るのが大好きだ。
いつもスクールバックの中にはカメラが入ってる。
詳しくないからよくわかんないけど、たぶん一眼レフとか言うやつだと思う。
いつも綺麗な物を見つけてはカメラで撮っている。
でも写真好きな彼が、どうしても撮らないものがある。
それは …
「ねえ、仁? 菜穂のことも撮ってよ」
「……撮らねえよ」
菜穂だけだ。
菜穂のことは撮ってくれたことない。
「俺は綺麗なものしか撮らないよ。可愛くなって出直してこい」
「もー、仁のばか」
いつもこれだ。
自分で言うけど、菜穂はそんなにブスじゃないと思う。
でも仁は撮ってくれない。
綺麗なものしか撮らないんだ。
これの繰り返しで、片想い歴は4年目に突入。
高2になってしまった。
