「入部希望なら
 顧問は今いないよ?」


「え、えと違うんです。
 家の事情で部活には入れなくてっ。
 きょうたまたま散歩してたら
 ここ見つけて、それでっ」

やだ、先輩の顔まともに見れないよ。

「そうなんだ」
 
先輩はちゃんと話を聞いてくれてる。

「もし少しでも体動かしたいなら
 朝だけでも参加してみる?
 柔道なら話つけられるけど」

「え、ほんとですか?」

「うん。
 ちょっと待ってね。
 深雪!」

相模先輩は武道場の中に向かって声をかける。

すると、ずっと背を向けていた女性が振り返った。

あ、あの人先輩と一緒に見た。

「深雪先輩って副会長の」

「そう。生徒会だけど柔道のコーチもしてる」

深雪先輩はゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「千尋?
 珍しいね。朝からここに来るのは」

「ちょっとね。
 それよりこの子、放課後はできないから
 入部できないけど朝だけでも練習に混ぜてあげてよ」

相模先輩の手が肩に置かれる。
さ、触られちゃった。

「ふーん。
 これまた珍しいね。
 千尋がおせっかい」

そう言って深雪先輩はにやりと笑った。

「ま、やる気があるならかまわないよ。
 私は深雪梓。
 柔道は経験あり?」

「は、はい。
 小学生からやってて」

「経験者なら問題ないね。
 明日から胴着持っておいで」

「はい!」

とんとん拍子に話が進んじゃった。