來中巡が来た教室……和哉は右側後方に、意識をとられたまま午前中の授業を終えた。



昼休みになり、数名の女子が巡の周りに集まり、早くも楽しげな会話に花が咲いている。




「…………」



そんな巡を尻目に、和哉はいつもそうであるように、黙って席を立ち教室を出ていった。




巡は、その姿をじっと目で追った。




「なーに、來中さん。神海くんのこと気になるの?」


巡の様子に、女子の一人が笑いながらそう聞いた。




「ううん……全然」



巡も、ややぎこちない笑みで、そう答える。




「彼のことは気にしない方がいいよ。ちょっと、良さげに見えるけど……スッゴい無愛想! 私なんて、未だに話したことも無いわ」



「そうなの」



巡の表情が曇る……。





「あ……あのぅ」



会話を聞いていた霞が、おそるおそる後を向いた。




「なに?」




「えーと……その……」




「あっ、その前に……」



巡は右手を前に出して、霞の言葉を遮ってから、こう聞き返した。



「あなたの名前を教えて」



「失礼しました。美都丘霞です」




「美都丘さんね。よろしく」



巡がニッコリと笑うと、霞もはにかんだように笑う。




「じゃあ、改めてどうぞ」



巡にそう振られて、霞は少し言いにくそうにしてから口を開く。



「あの……神海くんと……知り合いなのかな?」




「……なんで?」




「席につく時……なにか言ってたような気がしたから……」




巡は、表情にやや緊張感を滲ませながら、冷たく言う。




「知り合いかどうかはともかく……単なる他人であることには違いないでしょうね」




「……?」



霞は、巡の言葉にある種の胸騒ぎを覚えていた。