どたどたと廊下を走る音がする。

毎朝のことで、心はとっくに準備万端。

ノック音が聞こえることなく、扉は勢いよく開かれた。


「れーい、おはよー!」

「おはよう杏ちゃん。毎朝のことながら、扉はノックしてから静かに開けてね。」

「うん、わかったわかった。ねぇ何で毎日俺が来ると着替え終わってるの?玲のパジャマ姿見たいよ。」


絶対こいつわかってないなと思うのは毎日のこと。

そして妹にさらっとセクハラまがいのセリフを言っても気にならないのは、女顔負けの美人だからだろう。

行動ががさつなのが非常に勿体無い。

有栖川杏、あたしの2こ年上の大学1年生。

名前の"きょう"を、"あん"と読み間違われてしまうくらい女の子みたいな顔。

気がつくと、その顔がいつの間にかあたしの目の前にあった。


「玲、大丈夫?どっか具合悪い?」

「大丈夫。それよりも顔近すぎ。」


肩を押して杏ちゃんをどかすと、彼は屈めていた腰をぴんと伸ばしてこう言った。


「いいじゃん。2人だけの時間なんだし。」


笑顔で堂々と言うから怒るにも怒れない。

くっつこうとする彼を押し退け、あたしは自分の部屋を後にした。



有栖川杏

・有栖川家次男で大学1年
・女顔のがさつな男子
・妹に甘える変態野郎