「おや、あなたは見かけない顔ですね?あたらしい
お手伝いさんですか?」

「え?いえ、違います...よ?」

私が戸惑っていると、
紫波さんと呼ばれている人が説明してくれた。

「このお嬢ちゃん、なんでか店先に倒れてたんだよ。」

お客さんらしき人は
ほほぅと興味を持ったのかさらに近寄ってくる。

「はてはて、また何であんなところに?」

私は少し身を引きながら
答える。

「私にもよく分からなくて…。昨日は確か、家で寝たはず何ですけど…
あの、顔近いです…」


「ほぅ、では記憶がないと?」

無視された…

「いや、そういう訳でもないかと…あの、顔が近いですよ?」

「ふむ、では、あなたは
どこに住んでおられて?」

聞いてないー!!

「えと....」

答えようとして、
言葉に詰まった。
出てこないのだ。
住所をすっかり忘れてしまったのだ。

「...ん?どうしました?」

「....わかりません。」

お客さんは少し目を見開く。

「それはつまり?」

「忘れました…」

情けない。幼稚園でもないのに、住所が言えないなんて…

「忘れた?」

「あっ、でも外に出れば
帰り方わかると思うんで心配しないでください」

そういうと、お客さんはやっと、顔を離してくれ、
少しホッとした。

「話はすんだかい?お嬢ちゃん」

「あ、はい。じゃあ、私は
一旦帰りますね、お礼はまた今度持ってきます!
本当にありがとうございました!!」

私は頭を下げて勢いよく
お礼を言った。

店の中は洋風の造りになっていて、棚や床に並べてあるものは多種多様だ。
灯籠、文机、鳥籠や雑貨などといったものが置いてある。
にしても、アンティーク物の店なのか、今となっては、珍しい古くさいものばかりだ。

鷹麻さんにしても、
紫波さんも着物だなんて
すごいなあ。店の雰囲気に合わせてるのかな?

まあ、今はとにかく、
家に帰らないと。

私は、店の出入口に向かって歩き、洋風な昔風の喫茶店にあるような扉に手をかけ、振り返り、
一度頭を下げてから扉を開けた。