大嫌いなアイツ

 


嫌い?


ベタベタ?


俺は好きそう?


…。


…もしかして、俺が梨夏にベタベタ触るのが嫌、ってこと?
…俺、梨夏に触るの好きだし。


……心当たりが多すぎる。




悶々と考えながら厨房に向かい、料理の下ごしらえを始める。
慣れたもので、自然に手が動く。


…ふとこの間のキッチンでのことを思い出した。
本能のまま、梨夏に触れたことを。


あれも、本当は嫌だったってことか…?


「――あれっ!?吉野っ!?何で!」


厨房の入口からひょっこり覗くのは、ぱちくりと目を大きく開き、驚いた表情の梨夏。
予想通りの反応。
この顔が見たかったんだ。


なのに…今の俺はそれどころじゃなかった。


…触られるのが嫌なんて、そんな素振り一度も見せたことなかっただろ?
……本音は違う…ってことか?


マジか…
かなりへこむ。


実は梨夏のことを何もわかってないんじゃないかと、不安になる。
俺の独りよがりなのかも、と。


「…吉野?」

「――あ、うん。急にシフト入ってさ」

「そうなんだ~大変だねっ」


そう言いながらも梨夏は嬉しそうな表情をする。
…していると、思いたい。


「…うん」

「じゃあ、今日も頑張ろうねっ!」


拳を胸の前に作って、梨夏がにっと笑顔を浮かべた。


――この笑顔を手離したくない。


…それなら。
俺は梨夏にベタベタ触らないように努力するしかない。
嫌われるより触れない方がまだマシだ。
俺が我慢すればいいだけの話。


…絶対、離さないから。