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―――事件の次の日。
お客さんに絡まれたことが意外と怖かったみたいで、次の日のバイトに出るのが少しだけ憂鬱だった。
でも仕事はちゃんとしなきゃ…。
そう自分を奮い立たせて、緊張しつつ接客をこなしていく。
上手く笑えてるかな…?
そんな気持ちもあって、いつものように楽しく接客することはできていなかったと思う。
「これ運んで」
「あ、はい!」
厨房からスッと出てくるキッズランチセット。
…あれ?
キッズランチって、こんなの乗ってたっけ?
お皿に乗せられた、イチゴ。
チョコレートで目や口がデコレーションしてある。
かわいくて、つい顔が緩む。
…今日初めて、自然に笑顔が出た。
こういうの、子ども好きだよね。
誰が作ったのかな?
チラッと厨房を覗く。
橋元さんと吉野の姿がある。
吉野は絶対作らなさそうだし、橋元さんかな?
あの大きな手で細々作ったのかな…。
その姿を想像しただけで、何かほっこり温かい気持ちになる。
料理を運ぶと、子どものお客さんは『かわいい!』とすごく喜んでくれた。
喜んでる姿を橋元さんにも見せたいと思った。
同時に、私の中にあった緊張もどこかに飛んでいき、お客さんにも心から笑顔を向けることができるようになった気がする。
あのかわいいイチゴのおかげだ。

