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―――そして、今に至る。
閉店時間も過ぎ、店内にはラストまでシフトの入っていた俺と梨夏の二人しかいない。
梨夏はテーブルを拭きながら、相変わらず拗ねていた。
「…梨夏?」
「…」
「なぁ、いい加減機嫌なおせって」
「―――――やだ。」
「悪かったって。黙ってて」
「知らないっ」
「…」
梨夏は完全に俺に背中を向けてしまった。
そんなにショックだったのか。
驚かせようと思ってただけなのに。
…ったく。ガキ。
梨夏のそういうところが好きだったりするけど、どうしていいかわからなくなるからやめてほしい。
基本的に他人のことで悩むことなんてないけど、梨夏のことになると別だ。
しかも、今回のことは少しは悪かったかも、って思ってるし。
「…はぁ。梨夏」
「…」
「…………どうしたら許してくれる?」
「許さない」
「梨夏」
「私だけ知らなかったなんて、バカみたいじゃん!」
「り…」
梨夏の名前を呼ぼうとした時、梨夏が俺の方を振り向いた。
「っ吉野のバカ!嫌い!」
梨夏の口から出た言葉に、俺は動きを止めた。
―――嫌い。
その言葉が俺の頭の中を支配する。

