「!」
背後から聞こえてきた声に、私は振り向いた。
そこには、白いコック服を着た、鋭い目をした男。
その冷たい目と挑むような表情は、私はおろか、我が物顔で店に居座っていた男たちまでもを簡単に怯ませる。
―――うそでしょ…?
なんで…コイツが?
「―――――お客さま…?」
さらに低くなった声に、男たちはチッと舌打ちをして、苦虫を噛んだような表情を見せた。
そして諦めたように、千円札だけテーブルに置いて店を出ていく。
私はホッとして、店から遠ざかる男たちの後ろ姿を呆然と見ていた。
――――何も起こらなくて良かった…。
他のお客さんから自然と拍手が湧く。
私は我に返って、慌ててお客さんたちに向かって『すみません!』と頭を下げた。
そして、いつものような平穏な空間に戻った―――。
チラ、と斜め上を見上げると、何事もなかったかのように立っている男。
「―――…」
―――たちの悪い客に絡まれた私を助けてくれたのは…
大嫌いな男…吉野だった―――。

