大嫌いなアイツ

 

「――――鈍い。」

「は…っ!?」


あっという間のことだった。
チュッ、と音を立てた、唇同士。
……私のと、吉野のの、だ。


私は慌てて手の甲で唇を押さえる。
目の前の吉野は唇の端を軽く上げて、笑ってる。


「―――な、なに、すんのっ!?」

「なにって…キスだけど」

「そっ、そういうことじゃなくて…!」

「ん?」

「~~~っ!この前だって…!」

「………」

「………………何で、キスなんかしたの…?」


――――聞いてしまった。
一番、聞きたかったこと。


「…わからない?」

「わかんない…!ずっと考えてたけど…答えなんて出なかった」


泣きそうになって、私は俯いてしまった。
頭上から、はぁ、と吉野のため息が聞こえた。
ビク、と私の身体が跳ねる。


「……ここまで鈍いなんて、な。岡部さんだけだよ?気付いてないの」

「………?」