大嫌いなアイツ

 




閉店後、私はノロノロとお金を数えていた。
今日のラストペアは新婚ホヤホヤの先輩だったから、先に帰ってもらった。
後片付けは私一人だ。


シーンとする店内。
ちょっとだけ寂しい。


「はぁ…。イチ、ニ、サン…よし、っと」


お金の計算も合って、帳簿に金額を書き込む。
これで仕事は終わりだ。


フロアに移動してイスに座り、一息つく。
テーブルに頬杖をついて、厨房を眺めた。


明日からはこうやって厨房の中を見ても、吉野はもういないんだな…。


「はぁ…。やっぱり、私バカかも」


ちゃんと話せば良かった。
せめて、『お疲れさま』くらい言えたんじゃないのかな…。
助けてもらった時のお礼だって、結局言えないままで。
モヤモヤだけが残ってる。


久しぶりに芽生えたと思った恋は、気付いてすぐに、不完全なまま終わってしまった。
何とも悲しい結末。







…帰ろう。