――――…
吉野が辞める日が来てしまった。
今日を逃せば、きっともう吉野と会うことはない。
「会なんていりません。」
吉野は店長に柔らかく答える。
「えぇぇ…でも~」
「イリマセン。ほら、俺今日は早く上がらせてもらいますし。」
「まぁ、そうだけども…。そうか…吉野がそう言うなら仕方ないな…。じゃあ、これからも元気で過ごすんだぞ?」
「はい。ありがとうございます。店長もお元気で。お世話になりました」
…バイトの制服に着替えて、事務所前を通る時、そんなやり取りが聞こえて、つい、盗み聞きしてしまった。
早めに上がるんだ…。
私ラストまでだし…話せないままかもしれない。
このまま、会えなくなる―――…
―――ガチャッ
事務所のドアが開く。
「!」
ヤバっ!
と思った時には遅くて、部屋から出てきた吉野とバッチリ目が合ってしまった。
吉野は私の姿を認めたにも関わらず、まるでいないかのように目線を反らし、事務所内の店長に向かって、『失礼しました』と挨拶をしてドアをパタンと閉めた。

