「…とにかく。大したことしてませんから。からかうのやめてください。」
「おいおい~。吉野、素直になれって」
「俺はいつも素直です。」
「またそういうこと言う…。だっておまえ、おか」
「橋元さん?そろそろ鍋、時間じゃないんですか?」
「あっ、ヤベっ」
橋元さんは鍋にいそいそと向かう。
『危ない危ない~』と言いながら、橋元さんは鍋の灰汁取りを始める。
―――おか…?
って、なんの話だろ?
ちょっと気になるじゃん…
話を途切れさせた吉野を見ると、吉野はハァ、とため息をついて、私に目を向けた。
じっと見られて、私は焦った。
な、何っ!?
「岡部さん。」
「へぁっ!?」
「――――客。来てるけど」
「えっ、嘘っ!――――すみません!いらっしゃいませ!」
振り返った先にいたお客さんに、私は慌てて応対を始めた。
―――あの話の続きは何だったんだろう?
そんな疑問は、バイトの忙しさですぐに頭から消えてしまっていた。
私の中に残ったのは、吉野って意外といいことするかもしれないってこと、そして、本当に私のことが嫌いなんだってことだけだった。

