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そして月日は過ぎて……
私は東京の有名音楽大学のピアノ科に合格し、彼は地元の医学部に見事合格。
桜の咲き誇る、春の日に
私は東京に旅立つことになった。
見送りに来てくれた沢山のトモダチと先生
「頑張ってね、悠希!」
「まずは8月のコンクールね!
あちらの先生には私からも言っておくから、思う存分練習しなさいね。」
私を激励し、応援してくれる大勢の輪の中に…彼はいた。
淋しそうに
何も言わず、近づかず
遠くから見つめるだけの、彼
私も…
何も言えず、近づけず
遠くから彼の表情を盗み見ることしかできなかった。
だって、近づいて、話しかけて、
彼の瞳をジイッと見たら、
絶対に泣いてしまうとわかっていたから。
近づきたいのに近づけない
話したいのに、話せない
そんなどうしようもない状況を何分繰り返していたのだろう。
『お客様に申し上げます。
13時15分発、東京行きにご搭乗のお客様は5番ゲートまでお越しください。』
無常なアナウンスが場内に鳴り響く。
――智くん……
一言、
何か一言伝えたい。
そう思っているのに
「悠希。
そろそろ行かないと、乗り遅れるわ。」
母は私の手をぐいぐいと引っ張っていく。
――ちょ、ちょっと待ってよ…!!
そう思って彼の方向をを振り返ると
「……。」
彼は変わらずの表情で
私をずっと見つめているままだった。



