「ここでの宿泊はダメなんですよ。知ってます?」

「知ってる。ご飯おごるから内緒にしてくれないか」

「私が内緒にしても警察が…」

彼は私の話しにうなずきながら、飯盒炊爨の準備をし始めた。

「私の話し聞いてます?」

「うん。適当に。立ってるの疲れないか?これに座りなよ」

彼は小さい木製の椅子を私に用意してくれた。これに座ると…たぶん私は彼の用意したご飯を食べることになるんだよな。うん…。まあ、いいか。

「夕ごはんは食べた?」

「まだです。これから」

「梅干しは食べれる?」

「普通に食べますけど」

「じゃ、入れちゃうな」

彼はリュックサックから梅干し、油揚げ、大根を取り出し、それらを細かく刻んで飯盒に入れた。

「いつもこうしてるんですか?」

「家ないからね。働かないときは美味しく節約しないと」

そう話している間に、飯盒に塩がパラパラっと入る。

「塩入れるんですか?」

「醤油、料理酒、味噌、ソース、マヨネーズ…どの調味料も美味しいけど、俺の“美味しい”は味じゃないから、塩だけでいいんだ」