絶対にみちゃダメ!

 お兄ちゃんのところに帰りたい。

 まだ夢は遠くにあるのに。

 つかむまで帰れないのに。



「小町が泣くと、俺の胸が苦しくなる。だから、泣かないで、小町」

 雅は振り払われたことになんかひるまない。

 あたしを抱き締めて、長い指であごを持ち上げると頬を伝った涙を唇ですくった。

「俺が変わりに泣いてあげられればいいのに」

 またトンチンカンなことを言ってる、雅は。

 アンタのせいなんだよ、この涙は。

 やっぱり何にも分かってない。




 だけど、そういってくれたことが嬉しかった。

 あたしの涙に本気で心を痛めてくれていることが伝わって来たから。




 ねぇ、雅。

 アンタが何を考えているか全然分からないし、分かりたくもないけど……。

 雅が優しくて、あたしの事を大事に思ってくれてるっていうのは良く分かったよ。

 雅がそういう人でよかった。




「……ありがとう」

 あたしの素直なつぶやきは、大きく吹いた風にざわめいた木々の音に掻き消えた。

 雅に聞こえたか分からない。

 雅は何も答えてこなかった。

 だけど、あたしを抱き締める腕にギュッと力がこもった。