絶対にみちゃダメ!

 何を混ぜて作ったかわからないけど、虎が気に入っているというだけのことはあった。

 食いしん坊雅じゃないけど、お替りがほしいぐらいだった。

「おいしー。甘い」

「だろ?」

 あたしが思わず美味しさに喜んで声を上げると、虎は満足そうに微笑んだ。

 それはいつもの虎の笑顔と同じで、ただ自分の気に入ったものをほめてもらって喜ぶ子供みたいな無邪気なものなのに、格好のせいか凄く違う印象に見えた。



「あれ?小町顔が少し赤いよ。アルコールは入っていないはずだけど」

 虎はヒョイとあたしの手からグラスをとり、縁をなめた。

 無造作な動作なのに、なぜだか凄く色っぽく見えて、あたしは思わず目をそらせてしまった。



 ありえない、ありえない。

 きっとこの会場の人ごみと珍しい飲み物に、ちょっと酔っちゃっただけだ。




「あ、そうだ。早速、じーさまに挨拶にいくぞ」

 虎は、グラスを肩の後ろあたりに持ち上げた。

 無駄のない動きで、音もなく蝶ネクタイの人が現れて、銀のトレイにグラスを載せた。

 あたしは会場の皆が、虎の一挙一動を全てチェックしていることに気づいた。


 よっぽど細かく見ていないと、あれがグラスを片付けたい動作だなんてわかんないもの。

 たとえば、ここで虎がコケたりしたら、何人ぐらいの人が虎を助けに動くだろうか。