きっと雅があんまり美人さんで、優しいからだ。

「泣かないで?寂しくならないおまじない、してあげるから」

 ふっと顔に影がさした。

 とおもったら、あたしの唇は柔らかいもので覆われていた。



 ちょ、ちょっと!?



 一瞬何が起こったか、すぐに脳みそは処理してくれなかった。

 軽く触れて、すぐに雅は身体を離し、あたしの額をピンとはじく。

「涙、引っ込んだでしょ!」

 雅はいたずらっこのように微笑んだ。




 そりゃ、涙も引っ込む。

 あたし……雅とキスしちゃった!



 雅はもう一度あたしの髪を撫でてから、涼しい顔をしてベッドから離れていく。

 あたしは横になったまま、呆然とその背中を見送った。



 雅って女の子が好きなの?

 まさかね?



 上流階級では、寂しくなるとキスしてなぐさめるんだろうか。

 やっぱり、お金持ちの考えることって分からない。



 あたしは結局その日一晩、よく眠れなかった。

 昼間寝てしまったからなのか、パニックを起こしたからなのか、自分でも考えたくなかった。