本当にもう、やめて欲しい。

 雅も虎もあたしを揺さぶるようなことばっかり言う。



 あたしはドキドキと激しく全身が音を立てているのを感じていた。

 夜の少し冷たい風の中で、雅の華奢だけどしっかりした暖かい背中の存在を感じる。




 ゆらゆら揺れるお兄ちゃんとは違う男の子の背中。

 こういうとき、あたしはどうしたらいいか分からない。

 誰かに聞きたいけど、こんなこと聞けないし、聞ける人もいないし。




 それに、あたし……。

 雅があたしの事を欲しいって言ってくれた時、嬉しかった。

 別に雅が好きだからとかじゃない。

 誰かがあたしの事『欲しい』って言ってくれったって事が嬉しかったんだ。




 雅は純粋でまっすぐで天然だから、その言葉を疑わないですむ。

 だから言葉の通り受け止めていいって分かるから。

 あたしは結構そこに救われてるんだ。

 雅に言ったら調子に乗るから、絶対に言わないけど。




 あたしは雅の肩の辺りにそっと頭を預けた。

 目を閉じると春の風と雅のもつ柔らかい匂いが鼻をかすめる。


 もうちょっと怒るのを我慢してあげようかな、そんな風に思った夜だった。