編集長の怒りなんて、今は怖くない。



むしろ、行かなくていいと思っている自分が怖い。



私の持ち物は、たった一冊の本だけ。


まだ本屋には並べられていない、彼の新作。



全国の老若男女が期待している本。



そして、私のために書かれたかも知れない本。




「はぁ、はぁ」




電車で二駅、でも走る。


そのほうがイイと思ったから。



イイ歳の社会人が、街を全力疾走。



大人になって、こんなに必死になるなんて


なれるなんて、思ってもみなかった。



釣り合わない関係でもいい。


似合わなくたっていい。



ただ傍にいたい。


傍にいて、彼を知って



彼の作品を、誰よりも近くに感じていたい。


見ていたい。




「はぁ.....ッ、はぁ...」




家の前に来ると、とたんに緊張してきた。


走った分と緊張で、心拍数が大変なことになってる。