二の腕に気をとられているうちに、私は彼から離れる。
少し二の腕から血が出てる。
だけど、私には気にするほどの優しさなど、微塵も残っていなかった。
「さいてぇーッ!!」
「........ッ!!」
私は近くにあった鞄を持って、リビングから飛び出した。
涙を拭いながら見える、痣のついた手首。
玄関にある鏡で分かる、首筋のキスマーク。
こんなところで立ち止まりたくないのに、足が動かない。
涙で前が良く見えない。
「.......ッ!!!」
立ち止まっていたら、リビングからコップが割れる音が聞こえてきた。
次々と聞こえる。
陶器が割れて壊れる音が。
まるで今の、私たちのように。
そして彼が
『もう一回傷つかないうちに、帰れッ!!』と言っているようにも聞こえた。
言葉さえ発することの出来ない陶器なのに。
悲惨な音の中に、
まだ残る彼の優しさが、聞こえてきた。
「お邪魔...しました...」