楽しい時間が過ぎるのは早いもの。
ついさっき始まった気がする月見の会も、もう少しでお開きだろう。
月が中天に上る頃衣通姫は寒緋に声をかけた。
「寒緋、そろそろ準備を」
「……そんな時間か。ま、ずいぶん飲んだから良しとしよう」
飄々と言ってのける寒緋の周りには酔いつぶされた佐倉が転がっている。
冬には及ばないが、寒緋もまた酒豪。
危なげない足取りで咲き誇る寒緋桜に近寄っていく。
「帰ろう。宴は終わりだよ」
寒緋が幹に手を当てて優しく囁くと直ぐに寒緋桜は移動しやすい姿に変わった。
つまり、人型へと。