頭を撫でる冬を吉野は不安げに見上げた。
くす、と口元に笑みを浮かべて。
「次、誰かが枯れるとき一番に近づけなくなるのは吉野、あなたよ」
静かに告げた。
柔らかく微笑む口元とは裏腹に冷える瞳。
初が、花王が、御衣黄が、寒緋が、独りきりでいるときに、ふとよぎるその瞳。
世界の深淵を覗いたかのような錯覚さえ起こる底無しの黒。
「あらごめんなさい。少し脅かしすぎたかしら」
いつの間にか泣きそうな顔になっていた吉野を抱き上げる。
いつもの優しい冬だ。
「……なんで言い切れるの?」
それでも冬の顔を見ようとしない吉野の背中をなだめるように叩きながら答える。
「経験よ。初めて負に触れたものは畏れるから」
冬にその気持ちはわからないけれど。
「己に侵入してくる"力"に畏れる。喰われそうになるのがわかるのね、たぶん」

