「吉野がお姉ちゃんって呼ぶ先代が枯れたときのこと覚えてる?」
少しだけ口を尖らせて吉野はこくんと頷く。
いちいち可愛いやつだ。
「日に日にみんなが近づけなくなったのも覚えてるわね?
……そう、最後には花王も近づけなくなったわ。
でもわたしと吉野は大丈夫だった。
最期まで看取ってあげられた。
つまりは、そういうことよ」
尖らせた口をそのままに吉野は眉をひそめる。
「近づけなくなったのと噂は関係あるの?」
「ええ。噂が広がって桜は負の気を取り込みやすくなった。本来不要な力はそのまま逆に桜を取り込んでしまう」
「わかんない」
「いいの。吉野はわからなくていいのよ。すぐに実感できるから」
冬は吉野の頭を優しく撫でる。

