冬桜の領域に足を踏み入れた。

吉野たちヒトの姿をとれるものは本体を聖域に、力の弱いものはその種の領域にそれぞれ身をおいている。

つまりその種の領域にはその種しか生えておらず、入るときはその種の力のあるものに許可を得るのが礼儀となっている。

今回吉野が冬桜の領域に入るのには確固たる理由があった。


「着いたわ。此処が《墓場》」

冬の声につられて顔を上げる。

目の前に広がるのは更地だ。

さくらの園ではとてもとても珍しいむき出しの地面。

其処に横たわる木々。

全てが桜の木だ。

そして、枯れた木でもある。

「お姉ちゃん、久しぶり」

吉野は寂しげな表情で先代の染井吉野に声をかけた。