「ん……ああ、吉野だったの」
眠そうな澄んだ声が耳に届く。
木々の合間にぼぅっと白い影が浮かび上がった。
さながら幽霊だが、吉野は全く動じない。
「もしかして寝てた?」
「ええ。でも気にしなくていいわよ。用があるんでしょう?」
声がはっきりと聞こえるに従って影は姿を現した。
佐倉 冬という名の吉野と同じ花王の眷属、冬桜の化身だ。
佐倉としては珍しく腰までの黒髪を結い上げずに流している。
限りなく白に近い桜色の着物、帯留めは冬桜の花だ。
生花で帯留めとは現実的に有り得ないが化身とはそもそもイメージの割合が高い。
要はイメージできれば全て化身の姿に反映されるのだ。
「あのね、あのね、お姉ちゃんのところに行きたいの」
「花王の許可はある?」
「寝てた、のかな」
「……そう。わかったわ、ついてきて」
冬はくるりと向きを変えて歩き出す。

