さくさくと足元で音がする。
完全に世界と隔絶されているこのさくらの園では季節さえも介入を阻む。
だがそれはあくまでできる、という話であって先ほど吉野がいた聖域以外は季節が巡る。
生を謳歌している草を踏みしめて吉野は歩いていた。
向かうは姉の眠るところ。
先ほど書き終えた手紙を渡しにいくところなのだ。
秋から冬へと季節が動く狭間にも桜は咲く。
吉野が立ち止まったのはそんな桜の前。
「ふーゆーっ!いたら出てきてー」
白色の一重の美しい花が咲いている。
本来なら見頃はもう少し先なのだが、さくらの園の力で満開だ。
この時期は二度咲きの桜が忙しく仕事をするときでもある。
力が最も強くなる満開で桜たちは数少ない仲間たちと冬を越すのだ。

