「……花王?寝てるの?」

樹齢など本人も忘れてしまったであろう。

それでも巨大な幹が花王の生きてきた年月を物語る。

対する声のはをかけている幼女。

名を佐倉 吉野といい、花王の眷属だ。

最も年齢では天と地ほどの差があるのだが。

「ねぇ、お姉ちゃんに会いに行きたいの。いい?」

太い幹に小さな手を当てて呼びかけていた吉野は返事がないので困っていた。

しょうがないので否定の言葉が無かったと解釈する。

そのまま目で幹をたどり、枝から花へと視線を動かす。

昨日までと同じ美しい花だ。

けれども花王は吉野の呼びかけに答えない。

この頃はよくあることだ。

よくあることなのだけど……

胸に湧き上がる嫌な感じを無理やり押し込めて吉野は歩き出した。