俺自身も忘れていた母さんの記憶。

小さな俺に子守唄を歌う母さん。

熱を出した俺を一晩中抱きしめてくれた母さん。

父さんに『俺と龍也のどっちが好きなんだ』と詰め寄られて苦笑してた母さん。

幼稚園の入園式も卒園式も、小学校の入学式も真っ赤に目を腫らして泣いていた母さん。

優しくて

笑い上戸で

泣き虫で

甘えん坊で

ドジで

子供の俺がいつもハラハラしながら見ていなきゃならないくらい無邪気な女性(ひと)

それらが一つ一つ光の中に消えていくたびに、心の痛みは消え、代わりに風穴が空いたような、空虚な気持ちが広がっていく。

次々と光の中に消える母さんの記憶―――

その光が更に増して、目を開けているのに何も見えないほどに輝いた時…

最後に母さんを見たあの日の桜吹雪が目の前に広がった。