「構わない。辛いんだ。
母さんがもう帰らないのなら…こんな辛い記憶は必要ない。」

言葉とは裏腹に心の奥底が痛いほど震えるのが分かった。

俺の中の何かが母さんを忘れたくないと思っているのかもしれない。

でも…。

涙が込み上げそうになるのを、必死で拳を握って耐えると、身体が小刻みに震えた。


「僕の手を…取ってくれる?」


目の前に差し出された両手へとゆっくりと手を伸ばす。

安原が何か言っていたが俺の心は決まっていた。

この手を取れば…

俺は母さんを忘れられるのか?

この手を取れば…

楽になれるのか?

高端からまるで光が溢れているように見えて、引寄せられるように手を取った。