「…龍也がその思い出を無くしたほうが幸せなら僕は止めないよ。」

高端は悲しげに瞳を閉じるとそう言った。

俺が羨ましいと…
母さんの記憶が羨ましいと言った高端は、それでも俺の苦しみを自分のことのように感じてくれているようだった。

「忘れさせてあげる。つらい事を全部。
その代わり楽しかった事も優しい記憶も全部無くなってしまうよ?」

忘れる事ができるのか?

「お母さんがどんな人だったか、どんな風に笑ったかどんな声だったかも忘れてしまうかもしれない。」

母さんの声も、温もりも、あの微笑みも全部忘れられる?

「それでも…龍也はいいの?」

高端が念を押すと同時に、俺の中に今までの母さんとの記憶が一気に流れ出した。