心が押しつぶされそうな悲しみがビリビリと辺りを震わせて、木々がそれに反応するように枝葉をざわざわと揺らした。

「……龍也の悲しみの深さは想像することしか僕には出来ない。
でも僕はそうして忘れてしまいたいほどお母さんと過ごした思い出がある龍也を羨ましく思うよ。」

「な…に?」

「僕にはお母さんがいない。生まれた瞬間からね。
僕のお母さんは自分の命と引き換えに僕を産んだんだ。」

「―― っ!」

「響もお母さんの顔を知らない。物心がついた時にはもう、お母さんはいなかったそうだよ。」

「……安原も?」

「僕は入学式の日、君がお母さんとお父さんと三人で手を繋いで歩いているのを見てすごく羨ましかったんだ。
君たちはとても幸せそうだった。
僕のお母さんが生きていたら…そう思ったよ。」