龍也の悲しみが大気を伝って心に直接触れてくる。

痛いくらいの叫びが胸に突き刺さり、彼の心が壊れる前に手を打たなければと思った。

天使が僕と彼を抱きしめるようにその羽を大きく広げて包み込む。

その瞬間僕の背中に今までに無いほどの力が集中してくるのを感じた。

背中が熱くなる。全身に力がみなぎる。

龍也…心を閉ざすな。

僕の手を取って…。

僕は両手を広げ龍也に向かって差し出すと一歩一歩彼に近寄り、いつでも抱きしめ力を注ぎこめるように背中に集まる力に意識を集中した。

その間も天使が語りかけてくる言葉を必死に伝えながら。

「龍也。君の悲しみや苦しみは僕には分からないよ。
だけど分かる事もある。
君は楽しむ気持ちを忘れているって事。君がどんなに悲しくても朝はやって来るし、世界は動いていく。
生きている者はみんな立ち止まらずに前に進まなきゃいけない。
君は自分に閉じこもってそのことを忘れているよ」