「佐々木君ダメだよ。そっちは森だ。叱られるよ。」

背後から高端の声が聞こえた瞬間、迷いは消えた。

「ついてくんな!誰も俺に構うな!俺を…放っておいてくれっ!!」


追ってくる高端と安原を無視して、森に飛び込むと遊歩道からワザと逸れ、あえて薄暗い獣道を選んで走った。

誰にも見つからないように森の奥に自分を隠してしまいたい。

木の枝にズボンを引っ掛け破れても、小枝や葉が顔にスリ傷を作っても、俺は走る事を止めなかった。

母さんが悪いんだ。俺を置いて出て行ったから…。

俺を捨てた母さんなんて、このまま…忘てしまえばいい。

微笑が優しかった事も

ドジで泣き虫だった事も

抱きしめられると良い香りがした事も

カレーがとても上手かった事も

全部全部忘れてしまえばいい。