授業終了後、俺は黒野澄香のもとへとよった。

「なぁ、お前、時計…」

黒野澄香はこちらを見ずに答えた。

「壊れたよ」

「…は」

そして、こちらをチラリと見て言う。

「もうやりなおしはできない。…わかるよね」


そう。黒野澄香はハッキリと言ったのだ。

もうやりなおせない。

つまり、失敗は許されない。

失敗?

そもそも、こんな幸せだらけの日常を、やり直す必要はあるのだろうか。

両親が生きていて、家族のなかがいい郁奈。

妹が生きている真。

父さんが生きている俺。

…雪と良樹は?

いや、とりあえずこれでいい。

この世界はすくなくとも俺にとって幸せな世界。

黒野澄香は笑った気がした。

まるで、「それでいいのよ」とつぶやくみたいに。


でも、やっぱり幸せな日は続かないもんだなって思った。