その後は平和だった。

別に、誰かが死ぬとかいうこともなかったし、だれかとだれかが、不和ということもなかった。


だけど、ひとつ気になるのは、歴史がかわったのに俺が沼におちた後の話しだということだ。

父さんがいるのであったら俺は沼に入らなくてもよかったのではないのか。


そんな疑問も後になって知る。

ある日、真が言った。

「お前、どれだけあの時計大事だったんだよ」


「え?」


「古い懐中時計みたいなやつだよ。お前、あれを沼に落として、急に拾いにいったんだぞ」

「時計…」

そういえば、うっとおしかったほどのポケットの重みがない。

俺は慌ててポケットを探る。

ない。

「お、おい、どうしたんだよ」

俺はハッとしてあたりをみる。

目があった。

黒野、澄香…

「っ!」

「筒路?」

「あ。いや、なんでもない。時計…あれは、俺の御守り…みたいなものだったんだ」

「…そうか」

真がなにか言いかけたが、始業のチャイムに遮られる。

ただ、つぶやきのような声が聞こえた。



「あの時計…黒野が……」