沼についたとき、そこには真がいた。

真はこちらを向いて、驚く。

「唯鹿…どうしたんだ?」

「…母さんが死んだんだ」

真が息をのむのがわかる。

「…そうか」


真も小さい頃に妹を亡くしている。

この場所で。


あれから、ここは子どもは立ち入り禁止になったのだ。


「俺、今ならあの時の真の気持ち、わかるよ」

「…家族を、亡くした気持ちは、人によって違う」

いや、そうじゃない。あの時、真がひとり沼に埋もれていた時だ。


真は何か言い掛けてたよな。

真は死のうとしてたんだよな。自分から。


母さんが死ぬ世界、母さんが自殺する世界、父さんがいない世界なんて……



俺は沼へと足を進める。


「っあ、おい!」

真が慌てた声を出す。

俺はやっとのことで沼の中心にくる。

体が胸くらいまで埋まった。


俺は空を見上げ、いつかのように呟く。





「…困ったなぁ」







「筒路唯鹿っ!死ぬんならせめて時計を返していけっ!」

黒野澄香の声が響く。

俺は無理やり腕を動かしポケットの中の時計を取り出す。

腕に絡みつく泥を無視して、思いっきり投げた。


かちっという音がした。


最後に聞いたのは、黒野澄香の声だ。







「やり直せる!」