郁奈は俺と目を合わせない。

「じゃ、私…これで…」

「待てよ。どうしていつも祠を見てるんだ」

「それ、は…あ。私、も、帰ります。また、ね…」

「逃げるな」

とっさに郁奈の腕をつかむ。

郁奈は目を見開く。

「筒路くん、どうしたの…?痛いよ、離して」

「ど、う、し、て、い、つ、も、祠、を、見、て、る、ん、だ」

「っ!?関係、ないよね?いつも?いつもって?」

「毎回、同じタイミングで見ているだろうっ!」

「なに、言ってるのかわかんないよっ…」

郁奈は俺の手を離そうとする。

「もしかしたら、これはっ…」

「いいかげん離してよっ!」

郁奈が俺を突き飛ばす。

駆け出す郁奈の後ろ姿が急に消える。

「きゃっ、ああぁあぁっ!」

俺は石段を覗く。

階段の一番下には郁奈が倒れていた。

頭が割れて。


こんなのは、起こるはずがなかった。


「あ。うぁあぁあぁあっ!」

俺は駆け出した。