ここからは、とてもスローモーションに見えた。

雪の手から離れた包丁はくるくると円を描いて宙を舞う。

そして、柄の部分が壁に当たり、下に落ちる。

雪へと。

刃が雪の胸を抉った。

雪が口を開く。

顔に血が付く。

床に飛び散る。

雪は真後ろに倒れた。



「ぁ…あ…雪?雪っ!」

雪は死んでいる。

涙は出なかった。

「ゆ、き……」

ピンポーン

またチャイムがなった。


俺はビニール袋をクローゼットに入れ、雪を血が服に付かないようにベッドの下へと押し込み、近くにあったケースも入れ、床にタオルケットを敷いた。


「だ、誰ですか?」

予想はついていた。



「よぉ。ちょっと、いいか?」

…良樹だった。