詩織の母親が憎くて、仕方無かったんだと思う。
と、苅谷は小さく呟いた。
俺はその言葉に、拳を作った。
苅谷に怒りをぶつけても意味が無いことくらい、十分に分かっていた。
「誘拐されて、詩織は怖い思いをして、開放されて…
でも、親のところに戻っても、詩織は笑わなかった」
苅谷は俺の拳を見ると、クスリと笑った。
まるで、私も同じ。だと言っているように。
「だから、施設に預けたの。
心が穏やかになれるだろう、聖マリア幼児施設に」
「そして、預けた後に…両親は死んだ?」
「そうよ。
シスターが言うには、ちょうど詩織が笑うようになった時ですって」
俺のコップの中の氷が、カランという音をたてる。
「……思ったハズよ、幼い詩織は。
自分が笑ったから、親がいないのに楽しんだから神様がバツを与えたと」
「………詩織…」
「親が死んだ後から、また笑わなくなって、施設から離れる前まで一切笑わなかった」
苅谷は写真を見つめると無理やり頬を上げていた。
俺は不思議に思って首を傾げる。
「この笑い方…ね。
私が始めて見た、詩織の笑い方
詩織が柿園の養女になることが決まった日に、施設の子に見せた笑顔」

