巨大樹が普通の植物ではないことは、エレーナとて知っていた。
「そう」
プリシラは納得した。
「巨大樹が元気を取り戻すために、清らかな心を持つ人間を捜すのを手伝って下さい」
エレーナは、プリシラに嘘をついてしまった。
自分の言葉を信じ、ほっとするプリシラの表情にひと安心したものの、エレーナは罪悪感にさいなまれた。
エレーナは、自分独りで問題を抱えてしまった。
霊力が低下したシュウにも、こんな事は言えない。
心配をかければ、かえってシュウの消滅を早めてしまうだけだ。
エレーナは、プリシラや、シュウの前では、あえて普通に振る舞うよう心がけた。
学校では、シュウはクラスの人々とすっかり仲良くなった。
シュウをいじめていたグループの元リーダー格、柚原なつみも、以前のように
ひどい事をしなくなり、今はシュウとも何とかうまくやっている。
 
 一方天上界は、清らかな心を持つ人間を必死で捜し続けていた。
エレーナももちろん捜し回った。
エレーナは、シュウが何時消滅するか不安はあった。
でも、シュウとクラスメイト達との関係が良好な事で安心し、シュウの事は
プリシラに任せ、エレーナは清らかな心を持つ人間捜しに徹する事が出来た。
だが、清らかな心を持った人間など、そう簡単に見つからなかった。
「エレーナさんは、毎日何処へ出掛けているんでしょうか?」
シュウは窓の外を眺めた。外は雨が降っている。
シュウは、学校にも来ず、日中は何時も出掛けるエレーナがふと気になった。
「天上界の仕事が忙しいって言っていました」
プリシラも、エレーナからそれしか聞かされていなかった。
「学校は楽しいから、エレーナさんも来られればいいのに」
シュウは残念がった。

 その頃、ジェシー・クリスタルをはじめ、契約管理官達は不眠不休であることを調べていた。
人間界は、経済の悪化による貧富の格差の拡大、環境破壊、戦争、テロ、さまざまな理由で、不幸が増え、人間達を追い詰めていた。
追い詰められると、人は他者を思いやれなくなる。
自分の事しか考えない人々がますます増え、不幸が増加する。
不幸が新たな不幸をもたらし、負の連鎖に陥る。
不幸は人々の中に負の感情を産み、その想いから発生する破滅的なエネルギーは、やがて人々を滅ぼし、天上界にも波及する。
ジェシーは、負の想いから発生するマイナスエネルギーを懸念していた。