その頃、天上界には、願い事がいち度で叶わず、何度かやり直してようやく叶ったとか、願いが叶うまで時間がかかり過ぎるという報告が寄せらせるようになった。
イザベラ・エレガンス幹部は、他の幹部達や、エレーナ、ジェシーを巨大樹の元へ連れていった。
「御覧下さい。葉はどれも小さく、艶はありません」
エレガンス幹部は、枝を手に取って、天使達に見せた。
「ひどい、どうしてこのような事に?」
エレーナは、驚いた。
「巨大樹の生命力が以前より落ちています。
願い事が叶いにくいのはこのせいです」
「なぜ、巨大樹の力が落ちたのですか?」
ジェシーが尋ねる。
エレガンス幹部は静かに説明を始めた。
「原因はおそらく人間界……」
エレガンス幹部は、急に厳しい表情になった。
「今、人間界は大変厳しい試練に直面しています。
経済のグローバル化による、極端な格差社会、貧困、地球環境は悪化の一途をたどるばかり。
さらに、各地で絶えない戦争や政治的な争い……
社会混迷を極め、人々は追い詰められています。
人間は、追い詰められると自分の事しか考えなくなります」
「人間社会の悪化と巨大樹の生命力が落ちた事とどう関係があるのですか?」
エレーナは、人間社会と、巨大樹の関わりが分からない。
「巨大樹は、人間の清らかな心からエネルギーをもらっているのです。
でも、今の人間界は荒れ、自分の事しか考えられない人間が増え、他者を思いやり、いたわる清らかな心を持つ人間が急速に減っています。
私達がさまざまな能力を使えるのは、巨大樹から力を賜っているからです。
その巨大樹が急速に力を失いかけています。
人間界が荒れ、これ以上清らかな心を持つ人間が失われれば、やがて巨大樹は枯れ、天上界は滅びるでしょう」
エレガンス幹部の言葉はあまりにも衝撃的だった。
「天使は、巨大樹が力を失うと能力を使う事が出来なくなり、やがては死にます。
でも、よりランクの上の天使であれば、ある程度力をため込む事が出来るため、
しばらくは、能力も使え、生き続けられます。
しかるべき時に備えて、巨大樹の力が少しでも残っているうちに……
エレーナ、貴方を中間クラスに昇格させたのは、そのためです」
「幹部は、最初からこの事を御存じだったんですか?」
エレーナは、聞き返した。
「エレーナ、貴方にはこれから大きな役目が待っています。