屋上の端は柵がしてあり、その向こうは無い。
風が吹いてきた。そして黒川の髪がなびく。
「私みたいなおばさんが学校に来ちゃ迷惑よね」
「じゃあ、やっぱり!」
なつみは確信した。
「なつみさんの言うとおり、私はシオミさんの能力で若返った40代のおばさんです。
今まで黙っていて御免なさい。
でも、やっぱりこういうのって良くないよね。
なつみさん、私のせいでいやな思いをさせて本当に御免なさい」
 
「娘の学校生活の邪魔をするなんて母親失格ね」
黒川は寂しそうに笑う。
「本当の事を全て話します。皆さんも聴いて下さい」
そう黒川は切り出した。
「白川本家は、私と貴方のお父さんとの結婚を許さなかった」
「突然何を言い出すの?」
なつみは、黒川の言葉の意味が分からない。黒川は話し続けた。
「白川家が結婚を許されなかったのは、私が病弱だったから。
私が貴方を妊娠したことに気づいたのはその後。
でも、私は病気で産まれたばかりの貴方を育てられなかった。
だから、貴方を白川本家は引き取った。
本家は、貴方を分家である柚原家の養子にした。
柚原家は子供がなく、向こうもそれを望んだ。
黒川によって語られ始めた、知られざる真実。
「黒川さん、まさか!?」
シュウは恐る々聞き返した。
「柚原なつみは、私の娘です」
「そんな馬鹿げた話、信じるとでも思っているの!」
なつみはすごいけんまくになった。
「じゃあ、聞くけど、何で今更若返ってまで学校に来たの?」
「なつみが高校に入学するのを知ってどうしても成長した貴方に会いたくなったのです。
だから、シオミさんの力で若返って女子高生に成り済ませて学校に入学したんです。
でも、再会した貴方はひどく荒んでいた。私はそれを見ていてすごく辛かった。
白川君に対するいじめも何度もやめるように言ったが、貴方は全く耳を貸さなかった」
「じゃあ、白川と妙に仲良くしていたのは?」
「貴方が白川君に手を出せないようにするため」
なつみは、黒川の言う事を絶対に信じなかった。
そして、最後にこう吐き捨てた。
「母は死んだわ」
「柚原家の親からは、そう聞かされてきたのね」
黒川は寂しい表情になった。
「お母さんは、天使に生きたいって願った。でも、それをわざと叶えなかった。
だから死んだのよ。天上界がお母さんを見殺しにした」
なつみは声を荒らげた。