だが、なつみ自身は、誰からも話しかけられない事も、今日でいなくなる真紀の事も気にも留めない。
なつみは自分が赤ん坊の頃の写真に黒川が写っていた事で頭がいっぱいで、むしろそれどころじゃなかったのだ。
やがてバスは、温泉街の登山道入り口に到着した。
「なつみさんと真紀さんずっと会話しませんでしたね」
エレーナは、心配する。
「じゃあ、僕が話しかけてみます」
シュウがなつみに近寄った。
「なつみさん、一緒に山を登りませんか?」
なつみは、すぐにシュウを睨みつけ、
「何であんたと一緒に登らなければいけないの!」
食ってかかった。
みんなの心配を、相変わらず喧嘩腰な態度ではねつけるなつみに、真紀がついに苦言を呈した。
「クラスで孤立しないように、みんな貴方の事を心配してくれているのです。
それが分からないのですか?」
「余計な事をしないで。もう、あんたはもう辞めるんだから関係ないでしょ!」
なつみの強い反発に、真紀はそれ以上何も言えず、
せっかくの仲直りの機会がかえって険悪な雰囲気に包まれてしまった。
「あんたはもう辞めるんだから関係ないでしょ!」
この一言は真紀をさらに傷つけた。
「自分はなつみさんに、もはや必要とされていない」
真紀はそう思った。
 
 登山が始まった。
2列に並んでクラスごとに登って行く。シュウやエレーナ達も列を組んだ。
だが、時間がたつにつれ、列は次第にばらばらになる。
列の前方と後方の人が入れ替わったり。それぞれ体力に差があるからだ。
なつみは、次第に遅れをとるようになってきた。
シュウ、エレーナ、プリシラ、黒川、一ノ瀬真紀の5人は、なるべくなつみの
歩く速さに合わせるようにした。
「疲れているみたいですね。少し休みませんか?」
シュウがなつみに声を掛けた。シュウの呼びかけで5人は休憩を取った。
「いちいち私の歩調に合わせないで!」
なつみは、また怒った。
「だって、なつみさんが疲れているように見えたものですから」
「あんたは、幽霊なんだから別に疲れないでしょ。それに、天使ふたりも飛べるでしょ。
私に構わずとっとと行きなさいよ! 私は、全然疲れてなんかいないわ」
そう言うとなつみは、歩くスピードを速め、独りで登山道を登って行ってしまった。
「なつみさん、待って下さい」
シュウの呼び止めにも応じず行ってしまった。
「行ってしまいましたね」