真紀が休んだままで、ついに遠足の日が来た。
バスで途中の温泉街へ行き、そこから、登山する。
その日は、学校にバスが迎えに来た。
「真紀さん、今日も休みなのでしょうか?」
エレーナは心配する。みんな真紀が来るのを待った。
やがて、真紀が現れた。
「真紀さん!」
シュウが真紀の姿を見つけると、みんなで彼女を取り囲んだ。
「みんな心配したんですよ。真紀さんが来てくれて本当に良かった」
エレーナは安堵した。
「私は、実家の用事でしばらく家に帰っていただけですから」
真紀は、なつみですら、自分を心配してくれないのに、まだ、そこまで自分を思ってくれる人達がいる事が嬉しかった。
真紀にとっては、今日がクラスメイトと過ごす最後の日。
学費が払えなくなった真紀は、今日でこの学校を去らなければならない。
寮の荷物を片づけたのは、そのためだ。
だが、自分を心配してくれた人達の前で、退学の本当の理由など言えるはずがなかった。
  
校庭に集まったクラスメイト達に担任の佐倉先生が号令をかけた。
「皆さん、聞いて下さい。
今日は、皆さんにとって、大変残念なお知らせがあります。
今まで一緒に過ごしてきた、一ノ瀬真紀さんが、今日で学校を辞める事になりました」
佐倉先生の説明が終わるか否や、シュウをはじめ、クラスメイト達は質問攻め。
「真紀さん、どうして辞めるんですか?」
「そっ、それは……」
真紀はうつむき、それ以上話せなくなった。
「真紀さんは、家庭の事情で学校にいられなくなりました」
佐倉先生が喋れない真紀に代わり、説明を続けた。
佐倉先生も、真紀が学校を辞めなければならない理由を、家庭の事情で学費が
払えなくなったからとしか聞いておらず、なぜそうなったのかは知らない。
真紀は、柚原なつみの斬り付け事件を防げなかった事で、護衛をクビになって
退学にまで追い込まれたなんて絶対言えなかった。
本当の事を言えば、みんなに心配を掛けるばかりか、なつみがますますクラスで
孤立する事は目に見えていた。
佐倉先生は最後にこう言った。
「皆さん、今日は真紀さんと過ごせる最後の日です。良い思い出を作って下さい」

バスの車内では、なつみと真紀は隣の席になったが、目的地に着くまで一言も会話をしなかった。
なつみに話しかけるクラスメイト達など誰もいない。
なつみはずっと独りだった。